毎日社説:統一綱領 法理で民意をつかめるか
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20060306ddm0c.html
台湾の陳水扁総統が、国家統一綱領と国家統一委員会について、事実上の廃止を
宣言した。
正式に廃止したかったが、米国の圧力によって「適用を終止する」というあいま
いな用語を選んだといわれている。
陳総統は、支持率の低迷に悩んでいる。一方、野党の国民党は昨年夏、馬英九・
台北市長が党主席に就任し、馬氏の若さ、清潔さというイメージが浸透し、昨年末
の統一地方選挙で圧勝した。
このような状況のなかで陳総統は、来年の立法委員選挙、再来年の総統選挙に向
け、民進党の立て直しを迫られている。このため、中国との関係拡大を主張する国
民党との対立軸を鮮明にする必要があったのだろう。
統一綱領とは、国民党の李登輝政権下で制定された中台統一の中長期プログラム
である。統一という以上、台湾独立の選択肢はない。だが、統一の時期は、民主主
義と経済発展の水準で台湾と中国の格差がなくなったときとされた。実質は現状維
持の宣言だ。
陳総統は、1期目の就任演説でも2期目の再任演説でも、この綱領の継承を約束
した。しかし、政権発足以来、一度も統一委員会は開かれず休眠状態だった。今回
それを廃止しても実質的な影響はない。あるとすれば、台湾独立論の法理の形式的
意味付けだ。
台湾の民意をつかむという陳総統の目算は外れた、というべきだろう。まず、中
国の態度である。胡錦濤国家主席は、「重大な挑戦」「台湾独立に向かう危険な一
歩」と批判した。
しかし、江沢民主席の時代なら軍事圧力をちらつかせて台湾世論を憤激させたか
もしれないが、「和の外交」の胡主席は、台湾の野党党首を招待したり、パンダ寄
贈を提案しても、民進党との神学論争には深入りしない。温家宝首相の政府活動報
告も、対話と交流に比重を置いている。
米国も綱領廃止に冷淡だった。ブッシュ政権は中東問題に手いっぱいで、台湾海
峡の緊張を望んでいない。米国は、台湾との事前調整のなかで、「廃止(アボリッ
シュ)」という表現に反対して「凍結(フローズン)」を主張したが、台湾側がね
ばって、中断とも終了とも解釈できる「終止(シース)」になったという。
いまのところ2年後の総統選は国民党が政権を奪回する勢いである。最大の理由
は、馬主席という「ポスト陳」に挑戦する「顔」を持っているからだ。ところが民
進党は、陳総統の後継候補者がまだ決まっていない状態である。
来年の立法委員選から小選挙区制が導入される。小選挙区制は昨年、日本の総選
挙で小泉ブームが起きたように、各党のリーダーのイメージが結果に影響する。馬
氏に対抗する次の「顔」の見えない民進党は不利だ。
統一か独立かの法理論争に中国がのってこない以上、統一綱領廃止のインパクト
は小さい。いま陳政権が急ぐべきは、汚職事件などで低下した党の信頼回復と、次
世代リーダーの選定であろう。
毎日新聞 2006年3月6日 東京朝刊
コメントの投稿