社説:視点・格差社会考 それぞれ既得権益が問われている
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20060515k0000m070110000c.html
「格差社会考」として、これまで23回の論考を掲載した。オーソドックスな「
ニート・フリーター」の問題から、地域、財政、医療、教育などさまざまな分野で
の格差である。今回が最終回。まとめようと思ったが難しい。お読みいただいたよ
うに格差問題は非常に多様だ。
さまざまな声がある。格差論は小泉政治を批判する「ためにする議論」だと反発
する人がいる。また、経済効率を高め生産性を上げるには、公平性が多少犠牲にな
っても仕方ない、と考える人も少なからずいるだろう。
ここでは2点を指摘したい。いずれも「格差の固定化」につながる問題である。
第一は、正規雇用と非正規雇用の所得格差である。非正規男性従業員の賃金は正
規の64%に過ぎない。正規と非正規でほとんど仕事に差がないのに、賃金に差が
あるとすれば問題だ。非正規従業員は10年前は全体の20%だったが、昨年は3
2%に達した。非正規雇用でも貧困とは限らないが、そのリスクが大きい。
不景気と構造問題の両方がかかわっている。企業は不況を乗り切り、グローバル
競争に勝ち抜くため正規雇用を減らし非正規雇用で代替した。問題の軽減に最も効
果的なのは、なにはさておき経済成長だろう。ただ、景気がよくても企業は以前の
ようには正規雇用を増やさなくなった。
考えてみれば、労働市場で決定される非正規従業員の賃金は市場価格そのものだ
。正規従業員の賃金が労働の質は同じなのに、市場価格よりも何割も高いのはどう
いうわけだろう。それが年功制というものだ?
賃金格差をなくすためには、非正規賃金を正規賃金にまで引き上げればいいが、
経営者はそれでは国際競争に勝てないというだろう。フランスのようにパートタイ
ム労働の均等待遇を法制化している国もある。しかし、米国は全くの市場まかせだ
。
日本はどうするのか。実際問題としては、正規従業員の既得権に手をつける必要
があるかもしれない。少なくとも、それぐらいのことは視野に入れないと、この格
差問題は語れないと思うが、私たちにその用意はあるだろうか。
気になることの第二は、子どもを育てる資格のない親が増えていやしないか、と
いう懸念だ。そのような親あるいは家庭に生まれた子どもは、ちゃんとした大人に
育つ可能性がゼロに近い。機会の平等を確保せよというが、こういう状況を放置し
て機会の平等はないだろう。しかし、子どもを公権力が親から引きはがし、保護す
るわけにもいくまい。
格差問題は憂うつである。かなり手荒な手立てを講じないとなんともならない。
そんな予感がする。議論は始まったばかり。予感が裏切られることを切に期待する
。(論説委員、潮田道夫)
毎日新聞 2006年5月15日 0時26分
コメントの投稿