政党紙配布 釈然とせぬ公務員の有罪
http://www.asahi.com/paper/editorial20060703.html
政党の機関紙などを発行、編集、配布してはならない。違反したら3年以下の懲
役か10万円以下の罰金に処する。
国家公務員法と、それに基づく人事院規則はこう定めている。これに違反したと
して逮捕、起訴された社会保険庁の職員に対し、東京地裁は罰金10万円、執行猶
予2年という判決を言い渡した。
2年間、罪を犯さなければ、1円も払わずにすむ。ほとんど無罪に近い異例の判
決である。罰しなければならないほどの事件なのかどうか。裁判官が判断に悩んだ
跡がうかがわれる。
しかし、有罪は有罪である。警察の捜査も検察の起訴も、お墨付きをもらったこ
とになる。こうした判決で、言論の自由が狭まり、公務員が萎縮(いしゅく)する
のではないかと心配だ。
有罪とされたのは、3年前の衆院選で共産党機関紙の号外を東京都内のマンショ
ンなどの郵便受けに入れた行為だ。
こうした文書の配布は公務員の政治的中立性を損なう恐れが強い。放任すれば、
所属する行政組織全体に波及する。地裁はこう判断した。
理屈としてはそうかもしれない。しかし、判決は次のようにも述べている。
配ったのは休みの日で、場所も自宅の周りだった。受け取った住民はだれが配っ
ているのかも知らない。だから、ただちに行政の中立性と国民の信頼を損なうもの
ではなかった。
判決は、公務員の政治活動の自由について「一定の制約を受ける」と指摘する一
方で、「公務員も一市民としてこの自由がある」とも述べている。
休みの日に自宅の周りで、人知れずビラなどを配る。それは一市民としての自由
の範囲ではないのか。判決を読んでも、そうした疑問が消えない。
判決が有罪を導き出す根拠として引用したのは、32年前の最高裁判決だった。
衆院選で社会党候補のポスターを張ったり配ったりした郵便局員が、有罪となった
。今回の起訴は、実にそれ以来だ。
30年以上摘発しなかったのに、なぜ起訴にまで至ったのか。釈然としない。
一方で、官僚が選挙に立候補し、出身官庁の影響力を利用して資金や票を集めて
いる。官公庁の労働組合が職場で候補者を紹介するビラを回す。こうしたことがま
かり通っている実情を考えると、判決にはいっそう違和感が募る。
今回の判決を読むと、捜査のやり方も気になる。公安警察が1カ月にわたり、社
保庁の職員を尾行し、監視した。大量の捜査員を投入するという大がかりなものだ
った。警察は尾行の様子をビデオで撮影していた。
判決は、撮影した一部については必要がなかったとして行きすぎを認めたものの
、全体としては捜査方法に誤りはなかったと判断した。
今回の判決が、尾行や撮影の野放図な拡大を許すことにつながらないか。それも
心配だ。
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