http://www.asahi.com/paper/editorial20070728.html#syasetu1
政治に志を立てた者が、歴史上のどんな人物に自分をなぞらえ、理想と仰ぐのか。この人物像を見ると、選んだ側の政治家の人柄や人生観も見えてくる。
安倍首相が尊敬するのが祖父の岸信介氏であることはよく知られている。戦前に満州国を治め、開戦時の商工相だった。戦後はA級戦犯容疑者。のちに釈放され、「反共」をバネに首相まで上りつめた強運の人でもある。1960年に日米安保条約を改定した。
戦犯容疑で収監中、岸氏は家族へ頻繁に手紙を出した。
「新しい日本を本当に美しい形で作り上げるためには、新憲法の真の意味がよく理解され正しく実現されねばならない。上っ面の軽薄な美しい情操の欠けた権利義務だけの口頭の理屈だけでは到底真実の日本は建設できない」
47年、新憲法の施行から間もないころの一節である。占領下でつくられた憲法への複雑な思い、その後の改憲運動への芽がみてとれる。
安倍首相の「美しい国」の源流は、ここらあたりにあるのだろうか。
首相が唱える改革の、向かう先はどこなのか。岸氏が求めた「真実の日本」には、民族としての誇りや気概へのこだわりがふんぷんと漂った。その方向性において、首相は祖父に惹(ひ)かれるのか。
あるいは、反安保の世論のうねりに抗して安保改定を実現した岸氏の姿に、改革と取り組む自分を重ねるのか。のちに「昭和の妖怪」と呼ばれた老獪(ろうかい)さが参考になるのは、首相にはまだ先の話だ。
民主党の小沢代表が尊敬するのは、同じ岩手県出身の宰相、原敬である。初の本格的な政党内閣を組織し、藩閥政治と戦った。東京駅で暗殺される。
「もし、この人が暗殺されなかったら、大正デモクラシーは『ひ弱な花』で終わることなく、軍人や官僚の台頭も避けられたかも知れない」。小沢氏は著書でそう書いている。
官僚主導を打破し、政権交代が可能な政治を実現する。小沢氏が政治生命をかけるという改革の原型を、先人の中に見いだしているのだろう。
原は同時に、利益誘導型政治の元祖といわれるような顔も持ち、暗殺の一因にもなった。小沢氏が師と仰ぐ田中角栄元首相の土建政治と重なるのは、もちろん偶然のことだ。
ちなみに、公明党の太田代表が尊敬するのはインド建国の父ガンジー、社民党の福島党首は南ア初の黒人大統領ネルソン・マンデラ氏、国民新党の綿貫代表は母校慶応の創始者福沢諭吉だそうだ。
それぞれに改革を唱え、さまざまに戦ってきた人々なのは興味深い。共産党の志位委員長は小学校教師だった父親。
投票日のあす、党首たちが訴えた改革の方向を見極めよう。手段を、実現力を考えよう。この選挙もいずれは「歴史」になる。その評価にたえられる改革に私たちの票を投じたい。
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